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米FreightWaves誌:2025年6月6日付け記事
(要旨)
1.太平洋航路の東航サービス。
→ 1週間ほどで「熱狂の渦」に包まれた。
2.ノルウェーの国際物流コンサルXeneta社の分析。
(a) 極東出し米国東岸向け輸送の動向。
→ マーケット荷主の75パーセントが支払う「真ん中より高めの平均スポット運賃」の分析結果。(以下の通り)
① 5月3日以降、+88%という驚異的な急上昇を見せている。
② 足元では40ft換算で6,100ドルにまで達している状況。
(b) この価格急騰は、荷主が商品の移動を確保するため、より高いコストを負担しようとする意思を反映するもの。
→ 米中相互関税の一時停止によって生まれた当座の空白期間によってもたらされたものだ。
3.この間の極東出し米国西岸向けの平均価格。
→ 1FEU当たり2,615ドルから5,082ドルのレンジを辿っている。
4.北欧州出し米国東岸向けの平均スポット運賃。
→ 前週の2,081ドルから2,129ドルに上昇した。
5.Xenta社は、上記の同社「Latest Press Release」で、次のように述べている。
(a) 関税引き上げが90日間延期されたことで、以下の定航船各社は、スポット運賃の値上げ攻勢を拡大している。
① COSCO
② EMC
③ H-L
④ HMM
(b) これらの船社を中心にして、1FEU当たり3,000ドルもの大幅な値上げ要求が行われている。
6.他方、極東出し米国東岸向けのスポット運賃も、そのミッドハイのセグメントで+67%も上昇。
(a) 6月上旬には1TEU当たり7,180ドルにまで達した。
→ 不安定な貿易状況の中、相当数の企業が、短手番での出荷を試みているからだ。
(b) 極東出し米国西岸向けの運賃価格は、1TEU当たり6,100ドルとなった。
7.但し、この価格ダイナミクスは、太平洋航路に限った話ではない。
(a) 極東出し北欧州向け航路のミッドハイ運賃も上昇傾向にある。
→ 5月末から+32%上昇している。
(b) 足元の金額では、1FEU当たり2,704ドルの値を付けている。
8.今回の運賃上昇の状況は、以下の要因にも関わらず、発生しているものだ。
(a) このサービス航路で提供された4週間の輸送平均船腹が6月5日時点で346,000TEUに達したこと。
→ 過去事例から見れば、明らかに「需給が緩んでいる」としか言えないレベル。
(b) 上記の船腹量は、コロナ禍による輸送ラッシュのピーク時でさえ目にすることのなかったレベルだ。
9.Xenta社のPeter Sandチーフ・アナリストのコメント。
(a) 太平洋航路のスポット運賃が、ミッドハイ価格で+88%も上昇したことは、荷主が関税引き下げによる90日間で出来たチャンスに再び貨物を運ぶことを(逆に)強く懸念したためだ。
→ 荷主サイドの「もっと支払うことを厭わない」マインドを示すものと言える。
(b) 今まさに、船社は荷主にジャンプするように言っているようだ。
→ 一部の荷主は「ジャンプしろって、どこまで高く?」と答えている人もいる。
10.Sandチーフ・アナリストのコメント。(その2)
(a) この運賃高騰は一時的な現象だ。
(b) 太平洋航路の船腹量が回復することで、物凄い出荷ラッシュは「沈静化する」ことが予想される。
(c) サプライチェーンが徐々に回復し、在庫が増加するにつれて、価格圧力は弱まるだろう。
(d) スポット運賃は6月にピークに達するだろう。
→ その後、船腹量の制約が緩和されるにつれて下降するのではないか。
11.Sandチーフ・アナリストのコメント。(その3)
(a) 加えて、この太平洋サービス航路の変動は、極東出し北欧州向けなどの、他航路にも波及する。
(b) 米中関税の影響を間接的に受けているとはいえ、この航路(極東→北欧州)の方は、グローバル・サプライチェーンの不確実性の影響を感知している。
12.Sandチーフ・アナリストのコメント。(その4)
(a) ある地域で起こったことは、すぐさまグローバル・サプライチェーンに波及する。
(b) 地政学的な予測不能の事態と並んで、増大する船腹量(逼迫の)プレッシャー脅威が迫っている状況は、遠く離れたマーケットであっても、スポット運賃を押し上げるのには十分だ。
★ 予想されていたこととは言え、太平洋航路運賃の爆上がりステージが、いよいよ現実のものになったようです。
★ この現象は、コロナ禍後のラッシュでも目にすることなかった「346,000TEUという4週間の輸送平均船腹量」という環境下で発生しています。(8項)
★ まさに「frenzy(狂乱の)」という形容するに相応しい状況となっていると言えます。(1項)
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★ この記事では、専らXeneta社のデータが使用されています。
★ そのXeneta社の分析では、ミッドハイという「真ん中から上の」価格帯で、+88%も増加したとあります。(2項)
★ このような高い上昇率でいけば+2倍弱の増加となりますので、前回実績よりも+3,000ドル程度の上積みがあってもおかしくはありません。(5項)
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★ 実際、Drewry社WCIでも、太平洋航路が前週比で+2,000ドル強の上積みとなっています。
★ 尤も、WCIの場合は、ミッドハイのセグメントだけではなく、全てのセグメントを網羅した結果なので、Xeneta社のデータとは若干色合いが異なります。
★ それでも、Xeneta社のミッドハイ運賃のデータは、「海上マーケットの荷主の75パーセントが支払った結果」です。(2項(a))
★ つまりは、「主要な荷主」「主要な品目」を代表するデータとして、「高い信頼性がおける数字」と見て問題なしと思われます。
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★ 一方、そのXeneta社のPeter Sandチーフ・アナリストは、「スポット運賃は6月にピークに達するだろう」と予測しています。(10項(d))
★ Sandチーフ・アナリストは、その理由として「太平洋航路に船腹が急速に戻ってくるから」としています。
★ 同時進行する格好で、在庫が増加し、サプライチェーンが復活してくることも「沈静化へ」向かう要因としています。(10項(b)(c))
★ 同アナリストが言うように「一時的な現象」で終わるのかに関しては、来週以降の太平洋航路の運賃トレンドをモニターする必要があることは言うまでもありません。
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★ 因みに、Drewry社の「Intra-Asia Container Index(アジア近海コンテナ指標)」は、直近の5/30版で「横這いで推移」となっています。
★ ですが、「この太平洋サービス航路の変動は、極東出し北欧州向けなどの、他航路にも波及する」というロジックが正しければ(11項)、そのインデックスの最新号(6/13版?)では、右肩上がりの数字が並んでいるような気がします。
★ 少なくとも「ある地域で起こったことは、すぐさまグローバル・サプライチェーンに波及する」のは事実です。
★ 太平洋航路における「熱狂の渦」の影響を、引き続き注視したいと思っています。
以上